甘栗カッターと罪
FROM:寺本隆裕
この前の週末、実家におばあちゃんが遊びにきていました。
もうすぐ90歳になるおばあちゃんは大阪市内に一人暮らししているのですが、少し足を痛めているとはいえ、まだまだ元気です。おばあちゃんの家は実家から車で1時間くらいのところにあり、実家に来る時はいつもうちの母親が迎えにいくのです。
『おばあちゃん来てるから、夕飯食べにおいで』
と母親が誘ってくれたので、その日の夕方、僕と嫁と隆星(息子。3歳)で実家に行きました。ウチから実家までは徒歩10分の同じ町内です。
おばあちゃんはお土産に『甘栗』をもってきてくれました。おばあちゃんは大阪の天王寺というところによく出かけていて、いつも実家に来る時のために、お土産を買ってくれています。
「おいしいから食べてみ」
僕が実家に着くと、おばあちゃんは大きい袋の中にたくさん入った甘栗を渡してくれました。
「ありがとう」
甘栗なんて食べるのは久しぶりです。
甘栗と言えば、栗の殻に爪で切れ目を入れてから、指で力を入れてつまんで殻を割って食べるのが醍醐味。ですよね。最近は最初から「むいてる」やつもあるそうですが。
爪を立てると「サクッ」と切れ目が入り、指でつまむと「パリッ」と殻が割れる。そうなったときは快感なんですが、そんなものばかりではありません。殻が柔らかいやつに当たってしまったら大苦戦。爪で押しても殻はぐにゃっとへこむだけで、切れ目は入りません。深爪気味の僕はそもそもあまり爪が出てないので、思いっきり力を入れても解決しません。仕方ないのでフォークなどの固いものを持ってきて、穴をあけるしかありません。
そんなことをやっていると、親指と爪の間は黒っぽく茶色っぽく汚れるし、指先はワックスみたいなキラキラしたもので覆われます。
「甘栗ってむきにくいよな」
なんてベタな会話をしながらおばあちゃんと食べます。
一緒にテーブルについていた隆星は甘栗が気に入ったらしく、僕がむいた甘栗を次々に食べていきます。僕が格闘してむくのに約1分。隆星が食べるのに約10秒。どう考えても追いつかないので、僕はむくときに出る「カス」や、殻に残った小さい実を食べていました。(早よ、クレ。)隆星は僕に目で無言のプレッシャーを与えてきます。
ふと隆星が甘栗の袋の中に目をやって、
『この白いの、何?』
と聞きます。おばあちゃんは、
「それは乾燥剤やわ。栗が湿らんように入れてあんねん。」
もちろん、隆星は「湿る」の意味がわからないので、そのまま会話は終了。僕は黙々と栗をむき続ける。隆星は黙々と食べる。おばあちゃんは自分の分をむいて自分で食べる。そういうことをしばし続けていました。
「もういらん」
隆星が栗に飽きたようで、イスから降りておもちゃの方に歩いていきます。僕も、ほとんど隆星に食べられたものの、甘栗には少し飽きていました。もういいかな。そう思って甘栗の袋をしまおうと、フト袋の中を見ると、おばあちゃんが言っていた「乾燥剤」が目に入りました。
「あれ?」
何やら乾燥剤にしては形が変です。というか、乾燥剤によくある白い袋ではなく、透明の袋に入った白いプラスチック製の何か、だったのです。これ、乾燥剤じゃないぞ・・・
3~4センチ四方の袋を手に取ると、その袋には、『甘栗ムキ機』(だったかな・・・?)という印刷がされていたのです。
なんじゃこりゃ!
透明の袋から取り出してみると、それは親指ほどの大きさのプラスチック製の道具。押しピンみたいな要領で、その道具を殻に押し当てると簡単に切れ目が入る、というものです。透明の袋には小さく、「これを使うと簡単に殻に切れ目を入れられます」と書いてあります。
『まじで!』
試しにその『甘栗ムキ機』を使ってみると、なんと簡単!今まで柔らかい殻なら30秒ほどはかかっていた切れ目が、ワンタッチ。1~2秒で切れ目が入るのです!あまりに強力なので、力の入れ具合を間違うと実の方まで切れてしまうほど。
「うおーーー、簡単やんかーーー!!」
指も汚さないし時間もかからない。殻をむく生産性は数倍にアップしました。おばあちゃんも「それ、乾燥剤ちゃうかったんかー」とびっくり。僕も今まで苦痛だった殻ムキがちょっと楽しくなってきて、次々と殻をむいていました。
(でも、みんな甘栗を食べることには飽きていたので、僕がむいた甘栗は、そのとき誰にも食べられることなく、皿に入れられて(乾燥しないように)ラップに包まれることになりましたが、、、)
『外袋に書いてあるんかな?』
この「ムキ機」は、殻ムキに苦戦する多くの日本人にとっては、かなりの大発明です。特に、お腹をすかせた子供を持つ親にとって、一刻も早く甘栗を届けるということができるというのは、重要なことです。
しかし、甘栗の外袋には、その「ムキ機」が入っているということが、一言たりとも書いていませんでした。こんなに素晴らしい道具。甘栗をいつも食べてるような人なら、当然知っていることなのかもしれませんが、たまにしか食べない大多数の消費者にとっては、重要なことです。
ほとんど全ての甘栗メーカーの商品に、この「ムキ機」は入っているのかもしれません。でも、それが入っていることや、それを使うことによるメリットをアピールしない限り、それは見込み客には伝わりません。
魅力はきちんと伝わっているか?
我々、モノやサービスを販売しているものとして、僕たちも常にこのことは気をつけなければいけません。
- 自分たちが当たり前だと思っていること
- 自分たちだけではなく、業界ではどこもやっているようなこと
- 昔からやっているから、今更言う必要がない、と思っていること
これは、『言わなくていい』のでしょうか?
『甘栗ムキ機』が外袋でアピールされていたら、もっと手に取ってもらえる確率は上がったかもしれません。あるいはもっと快適に商品を使ってもらえる確率は上がったかもしれません(最悪、ムキ機が栗の下に入り込んでしまっていて、全部食べ終わったあとに「あ!こんなん入ってた!」と気づかれたら、印象は最悪です)。
灯台下暗し。
案外、あなたの商品の魅力は、手元にあるのかも?
魅力、伝え漏れているところはありませんか?
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商品のメリットを伝えるプロ。その一つがコピーライターです。
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わかりやすい話をありがとうございます。
教えてあげることで
よりよい体験を味わってもらうことの
必要さが伝わってきました。
行動したからこそでる
不便な部分は
取り除く説明があるだけで
ぐっと魅力的になりますね。